医療翻訳とは?依頼前に知っておきたい注意点
医療翻訳、対象となる文献は?
医療翻訳とは、医学や製薬などに関する文書の翻訳をすること。医療翻訳の範囲は、医学や製薬に限らず、医療や医薬品のほか、医薬部外品、サプリメント、化粧品など、人の健康や衛生・美容などに関連する様々な分野を対象にしています。
多くの分野を対象とする医療翻訳ですが、主な分野に分類すると次の4つになります。
医薬品
医薬品とは、病気やケガなどの治療を目的とした薬のこと。医療翻訳では、新たな医薬品の承認調査書類、医薬品に関する報告書、治験に関するドキュメントなどを対象に翻訳をします。
医薬部外品・化粧品
医薬部外品とは、厚労省が許可した有効成分を一定濃度含み、かつ治療というよりも、衛生・防止などを目的とする製品のこと。化粧品とは、医薬部外品よりもさらに働きが穏やかで、主に美容・清潔感などを目的とする製品を差します。医療翻訳では、それぞれの製品の報告書や説明文、販促資料などを対象に翻訳します。
医療機器
医療機器とは、病気の診断や治療、予防などを目的とした機械・器具のこと。CTやレントゲン装置、心臓ペースメーカーなどのほか、体温計や血圧計、コンタクトレンズなども医療機器の範囲に含まれます。医療翻訳では、様々な医療機器に関する承認申請書類や取扱説明書などを対象に翻訳します。
学術
医療翻訳では、医療・医薬品などに関連する学術論文や医学書、医療系ジャーナルなども翻訳の対象としています。
※参照サイト:https://www.kao.com/jp/binkanhada/ingredient_01_01/
https://www.pmda.go.jp/safety/consultation-for-patients/on-devices/qa/0016.html
医療翻訳に求められるスキル
医療翻訳は、他の多くの分野の翻訳に比べ難易度が高いと言われ、スキルが必要とされています。必要とされる主なスキルは次の通りです。
正確な翻訳を行うための英語力
正確な翻訳を行うためには、英語力が必要となります。特に医療分野においては高いスキルが必要とされています。
なぜならば、翻訳者の誤訳がそのまま人の健康に影響を与える可能性があるからです。
そのため、医療の専門家が査読を行う学術論文においては、ストレスなく読める滑らかな翻訳を心がける必要があります。
必要な英語力の客観的な目安としては、TOEICであれば850点以上、英検であれば準1級・1級のレベルと考えておくと良いでしょう。
医療・医薬品などの専門知識
医療翻訳を行うためには、医療に関連する用語だけではなく、医療知識も必要となります。
たとえば、医薬品分野の翻訳を行うためには、基本的な理系知識はもちろんのこと、薬理学や生化学などに関する一定の知識が必要です。また、医学分野の翻訳を行うためには、人体の仕組みや病気・ケガの治療法などに関する知識が必要となるでしょう。さらには、医療機器の翻訳を行うためには、ITに関する知識もある程度必要です。
なお、医療・医薬品の情報は常にアップデートされているため、日頃からそれらの情報に関心を持って目を通しておく習慣も求められます。
規定・形式に沿って正確に翻訳する能力
医薬品や医療機器などの業界では、研究から製品販売に至るまでの様々な工程で、非常に細かい規定が設けられています。医療翻訳をする際には、これらの規定をよく理解し、書類形式やガイドラインの形式に沿って正確に翻訳することが求められます。
また、学術論文の翻訳においては、独特のアカデミック調で翻訳することも必要です。論文の掲載先によって独自の投稿規定が設けられていることもあるため、それらの規定に留意しながら翻訳作業を進めていきます。
医療翻訳者に関する資格
医療翻訳者になるために必須とされる資格はありません。ただし、実際に医療翻訳者として仕事をするためには、上で挙げたような能力が必要になります。
なお翻訳会社では、翻訳者がどの程度の医療翻訳の能力を持っているかを判定するため、医療翻訳者の採用に際してトライアルを課していることが一般的です。医療翻訳者になるためには、このトライアルに合格することが大前提となりますが、それに加えて、次のような資格を取得していれば翻訳会社に対する強いアピール材料になることでしょう。
JTFほんやく検定
JTFほんやく検定とは、「一般社団法人日本翻訳連盟」が主催している民間資格。1~5級の5段階に分かれ、4級と5級では翻訳全般に関する能力、3級以上では特定分野(医学・薬学、科学技術、金融・証券など)に関する翻訳能力が問われます。
3級以上の合格者には「翻訳士」の称号を授与。医療翻訳者として本格的な仕事を行うためには、最低でも2級、できれば1級の取得を目指したほうが良いでしょう。
JTA公認翻訳専門職資格
JTA公認翻訳専門職資格とは、「一般社団法人日本翻訳協会」が主催している民間資格。英語と中国語の資格に分かれ、英語の場合は、①翻訳文法技能試験、②翻訳IT技能試験、③翻訳マネジメント技能試験、④出版翻訳能力検定試験またはビジネス翻訳能力検定試験の4つの試験を受験します。医療翻訳者を目指す人は、4つめのビジネス翻訳能力検定で「医学/薬学翻訳検定試験」を選択して受験します。
①~③の全てに合格した上で④で2級以上を取得し、かつ2年以上の翻訳実務経験に関する実績審査を通過した人には、「JTA 公認翻訳専門職」の称号が授与されます。
翻訳実務検定TQE
翻訳実務検定TQEとは、東京新宿にある「サン・フレアアカデミー」が主催している民間資格。ITや医療機器、医学・薬学、環境、特許、金融・経済、文芸などの様々な分野に分かれ、自分が選択した分野の日本語・英語の翻訳能力が判定されます。
50点以上(100点満点)のスコアを取得した人には、スコアに応じて1~5級までのいずれかの級を授与。70点以上を取得した人は「翻訳実務士」に認定され、サン・フレアアカデミーの翻訳者登録が可能となります。
医療翻訳者の即戦力として活躍するためには、最低でも2級(80~89点)、できれば1級(90点以上)を取得しておいたほうが良いでしょう。
治験実務英語検定
治験実務英語検定とは、「一般社団法人日本CRO協会」が主催している民間資格。資格名の通り、治験に関する翻訳能力を判定する検定試験になります。
検定試験コースは「Basic」「Advance」「Professional」の3種類。難易度のイメージは、おおむね「Basic」がTOEIC400点以上、「Advance」がTOEIC600点以上+実務経験1年以上となります。
なお2022年3月現在、「Professional」の試験はまだスタートしていません。試験内容の詳細を検討した上でスタート時期を決める予定となっています。
https://www.jcroa.or.jp/education/en_overview.html
https://www.jta-net.or.jp/about_pro_exam.html
https://www.sunflare.com/academy/?page_id=14477
https://kentei.jtf.jp/