ソフトウェアライセンスの英文契約書作成のポイント
ソフトウェアライセンス(使用許諾)契約とは
ソフトウェアライセンスとは
ソフトウェアライセンス契約とは、ライセンスを与える権利者(ライセンサー)がライセンスを受ける利用者(ライセンシー)に対して知的財産権で保護された創作物の「利用を許諾する」契約です。
ライセンス契約の種類
ライセンス契約には、下記のような種類があります。
- 技術に関する特許権のライセンス契約
- 商標のライセンス契約(使用許諾契約)
- ブランドネーム(商標)に関するライセンス契約
- キャラクターなど著作権に関するライセンス契約
- 技術に関する特許権のライセンス契約 など
サブライセンス権とは
ライセンサーから許諾を受けたライセンシーが、さらに最終エンドユーザーにソフトウェアの使用を許諾する権利を「サブライセンス権」といいます。
ある企業のソフトウェアを販売代理店が一つの商品として「販売」する場合、「販売代理店契約」という契約形態になります。この場合、販売代理店が販売した分がライセンサーの利益になります。
一方、「サブライセンス権付きライセンス契約」の場合、「販売」ではなくライセンシーがソフトウェアを「複製」して使用許諾をしていくということになります。
この場合のライセンサーの利益は、ライセンシーが複製した数に応じた「ロイヤルティ=使用許諾料」からもたらされます。
英文でソフトウェアライセンスの契約書を作成する際の注意点
ライセンスの対象
企業が有する特許権や著作権、ノウハウなど、商業的な価値のある「無体物」のことを知的財産権といいます。
この知的財産権のうち、当該契約により「どの知的財産権の使用を許諾するのか」を明確に決める必要があります。
例えばロゴについて使用を許諾する際、複数のロゴが存在する場合は「どのロゴ」を許諾するのか特定しないと、後々トラブルになる可能性があるのです。
ライセンスの範囲
使用を許諾する知的財産権を選定したら、その対象物の「何を」「どの範囲で」使用許諾するのかを明確にする必要があります。
- 使用ハードウェアを限定するのか
(このパソコンだけ、もしくはパソコン3台までなど) - 同時アクセス数は3ユーザーまで
- ネットワーク経由での利用を認めるのか
- 使用目的を限定するか など
独占か、非独占か
ライセンシーに著作物の使用を認める地域、使用方法、ライセンスが「独占」か「非独占」かを明確にし、契約書に明記することが重要です。
独占の場合、ライセンサーは他のライセンシーや代理人・販売店等を通じてそのソフトウェアを当該地域で販売することはできません。
独占のほうがライセンシーの受ける利益は大きいので、使用許諾料(ロイヤリティ)は高くなります。
譲渡やサブライセンス権について
ライセンス契約はあくまで知的財産権を一定範囲において使用することを「許諾」するもの。権利を「譲渡」したものと解釈されないように、契約書には明確に記す必要があります。
また、ライセンシーが使用許諾を受けた知的財産権を第三者にサブライセンスする権利を「許諾」するのか「禁止」するのかについても明示的に記載する必要があります。
ロイヤルティ
ライセンシーがライセンサーに対して支払う知的財産権の使用許諾料=ロイヤルティについて取り決めます。
ロイヤルティは大きく分けて3通りのものがあります。
ランニング・ロイヤルティ
ライセンシーが複製し再使用許諾(販売)した本数に応じて支払われる形式です。
「イニシャル・ペイメント」「ダウン・ペイメント」
いわゆる頭金のことで、契約時にある程度まとまった金額が支払われる形式です。
一括払いロイヤルティ
契約時に実施許諾料全額を支払ってしまうという形式。ランニング・ロイヤルティも発生しません。
知的財産権の侵害時の対応
ライセンス契約において「ライセンス対象が第三者の知的財産権を侵害している」として第三者からクレームや裁判を起こされた場合の対応を明確に規定しておく必要があります。
ライセンシーがライセンサーに対してどのような請求ができ、また、その請求はどの範囲に限定されるのかを規定する補償条項を決めておきます。
下記は代表的な保証条項の例です。
- 賠償額等に上限を設定する
- 著作権侵害に限定して補償する
- 故意または重過失の場合に限定して補償する
知的財産権の権利侵害が発覚した場合、ライセンサーがライセンシーに課す義務についても細かく規定します。
- 遅滞なく通知すること
- 交渉または訴訟への参加の機会を付与すること
- 紛争解決内容の決定権限の付与
- 協力義務の履行 など
契約期間と保証期間
ライセンサーがライセンシーに対して使用許諾する期間を詳細に定めます。
- 使用を許限定する期間(永久的か限定的か)
- 契約期間内であっても、契約違反があった場合は解除するのか
- ソフトウェアの正常な動作について保証期間 など
契約終了後の義務
ライセンサーは、契約終了後もライセンシーがソフトウェアを使用し続けることを防ぐため、ライセンス契約が終了した後についての義務も規定しておく必要があります。
- ライセンシーの販促品などに表示されている商標やロゴの撤去
- 資料や記録物の返還・破棄、またその具体的な方法
(データを破棄したことを証明する書面を提出するなど)
ソフトウェアライセンスの英文契約書の書式
ここからは「サブライセンス権付き」のソフトウェアライセンス英文契約書の書式について解説していきます。
定義条項(Definition)
この項では、契約書の中で使用される語句を定義します。
- ソフトウェアの内容
- ソフトウェアのバージョン
- プログラム以外に含まれるドキュメントの範囲
- サブライセンスの形態
- サブライセンス権が使用許諾を限定する地域 など
権限許諾条項 (Grant of License)
ライセンシーが当該ソフトウェアを複製した上で、本契約で定めた「地域」のエンド顧客にサブライセンスすることを許諾する旨を定めた条項です。
ライセンシーの権利が当該地域において「独占的」なのか「非独占的」なのかも必ず明記します。
独占性条項(Exclusiveness)
ライセンシーの権利が「独占的」な場合、ここで具体的な権利を定義します。
例えば「ライセンシーは本契約で限定した地域以外では商売をしない」といった定義が盛り込まれます。
当事者の関係条項(Relationship)
契約当事者が互いに他方当事者の代理人とならないことや、パートナーシップ(組合関係)を構成するものではないことを宣言する規定です。
情報開示条項(Disclosure of Technical Information)
ソフトウェアを複製、改変、ローカライズするために必要な情報を、ライセンサーがライセンシーに提供することを定める条項です。
具体的には下記のような事項になります。
- プログラムコード
- マニュアル
- 仕様書
- データベース
- 知的財産権に関する事項
技術指導条項(Technical Training)
ライセンサーの技術者がライセンシーに対して行う技術的な指導や訓練に関する規定です。
具体的には下記のような項目があります。
- ソフトウェアの複製、修正
- ローカライズ
- 翻訳
- 保守サポート など
ロイヤルティ条項(Royalty)
知的財産権の使用許諾料(ロイヤルティ)について定めた条項です。
主なロイヤルティの形態
- ランニング・ロイヤルティ
- 「イニシャル・ペイメント」「ダウン・ペイメント」
- 一括払いロイヤルティ
上記のランニング・ロイヤルティについて、その最低額を定めたものが「ミニマム・ロイヤルティ条項(Minimum Royalty)」です。
ライセンシーの利益額がいくらであっても、このミニマム・ロイヤルティを最低保証額としてライセンサーに支払うことを保証するものです。
支払条項(Payment)
支払い方法等を定める規定です。
支払い方法に関して、以下のようなことを定めていきます。
- イニシャル・ペイメントの支払い期日
- ロイヤルティレポート(ある期間のロイヤルティ額を計算した報告書)の提出日や支払期日
- 支払い通貨を何にするか
- 振り込みにするかどうか
- 送金費用を誰が負担するか など
会計帳簿、ロイヤルティレポート条項(Accounting Books and Royalty Statement)
ライセンサーはライセンシーに対し、ロイヤルティレポートの内容に間違いがないか検証するために、適切な会計帳簿を作成させることを義務付けます。
本項では、ライセンサーの会計士などがこの帳簿を監査する権限(監査権)がある旨が規定されます。
税金条項(TAX)
ロイヤルティはその性格から税務上「役務」に対する報酬と位置づけられ、ライセンサーの国とライセンシーの国両方に課税権があります。
両方の国が課税して「二重課税」となってしまうのを防ぐため、各国間で条約が締結されており、ライセンシーの国で源泉徴収すれば、ライセンサーの国での課税は免除されます。
最近では、ロイヤルティに対する源泉税が非課税となる国もあるため、事前に税務署へ確認が必要です。
競合禁止条項(Non-Competition)
特に独占的なライセンス契約の場合に、ライセンサーは許諾地域内での売上を最大化するため、ライセンシーが競合品を取り扱うことを制限することがあります。
また、ソフトウェアの販路拡大に最大限の努力をしてもらうため、ライセンシーにミニマム・ロイヤルティを課す場合もあります。
知的財産権条項(Intellectual Property Rights)
本契約に定められた権利(使用権や複製権など)を除き、ライセンサーが保有する当該ソフトウェアの知的財産権(著作権、特許権、商標権など)は契約締結後もライセンサーに留まる旨を規定するものです。
ライセンサーが提供する情報に基づいてライセンシーが創造した知的財産権もすべてライセンサーに帰属することが規定されます。
改良技術に関する条項(Improvement)
契約期間中にソフトウェアに関連した技術を改良・開発した場合、ライセンサーはライセンシーに対して開示する義務を負うということ、ライセンシーは改良技術を必要な範囲で使用する権利があることを定める規定です。
保証条項(Warranty)
ライセンサーが提供する当該ソフトウェアやプログラム、関連資料に関する権利が、正当にライセンサーに帰属するということを保証する規定です。
これによりライセンシーは、許諾された権利の行使に問題がないことを確信できます。
侵害条項(Infringement)
通常、当該ソフトウェアの知的財産権に関して第三者と紛争が生じた場合は、技術の開発者であり保有者であるライセンサーが全責任を負う旨が規定されています。
ただし、損害賠償などの被害を最小限に食い止めるために、問題が発覚した場合は互いに通知し合うなど、ライセンシーにも協力義務を課すことを規定します。
宣伝条項(Advertisement)
広告宣伝に関する費用負担者を明確にする規定です。
また、広告宣伝の内容ややり方に関しても、ライセンサーがどこまでライセンシーに口出しをできるのか規定しておく必要があります。
商標条項(Trademarks)
ライセンシーが当該ソフトウェアの宣伝広告を行う際に、ライセンサーの商標、ロゴ、ライセンサーの名称などの使用を義務付けるかどうか、という規定です。
ケースによって、使用を認める場合と認めない場合の両方があります。
秘密保持条項(Non-Disclosure)
守秘義務に関する条項です。
ライセンサーにとって非常に重要な秘密情報の取り扱いを規定するため、厳しい守秘義務がライセンシーに課せられる場合もあります。
具体的には下記のような規定です。
- 開示範囲(秘密情報の定義)
- 例外条項の範囲
- 守秘期間
秘密保持に関して、「エスクロウ条項(Escrow)」を設ける場合もあります。
エクスロウとは、エクスロウ・エージェントにプログラムのソースコードなどの秘密情報を預けておき、ライセンサーが破産した場合などにエージェントからソースコードなどを引き出してライセンシーが使用できるという仕組みのこと。
これにより、ライセンシーはライセンサーに問題があった場合でも当該ソフトウェアのサポートやバージョンアップを行え、事業を継続できるようになります。
契約期間条項(Term)
契約期間や更新などについて定める規定です。
特に独占的なライセンス契約の場合は、最初の契約期間をどの程度にするかということがポイントになります。
リスクを避けるために最初は短く契約したいライセンサーと、販売体制構築にかける労力を回収するためできるだけ長く契約したいライセンシーとの間で期間を調整していくことになります。
契約解除条項(Termination)
ライセンシーがまともな営業活動をしないなど問題がある場合のために、契約期間前に契約を終了させる条件を規定するものです。
「催告なしに解除できる項目」、「債務不履行などの催告の上で解除する項目」に分ける場合もあります。
契約終了の効果条項(Effect of Termination)
契約が解除または満了により終了した際に、ライセンサーの商標などが記載された媒体(パンフレットかカタログなどあらゆるもの)の使用を直ちに終了させたり廃棄させることを義務付ける規定です。
輸出管理条項(Export Control)
ライセンサーから導入したソフトウェアを海外へ輸出・持ち出しをする際に、許可取得など適切な輸出手続きを取ることをライセンシーに義務付ける規定です。
通知条項(Notice)
通知方法を定める条項です。
具体的には下記のように方法を明確に規定します。
- 内容証明郵便とする
- FAXの場合は同じ内容を郵便に出す
- Eメールのみとする
特に国際契約の場合に規定されることが多い条項です。
権利義務譲渡禁止条項(No-Assignment)
ライセンシーが勝手に契約上の債権や債務を第三者に譲渡、移転することを防ぐため、契約、債権、譲渡、債務の引受を禁止する条項です。
準拠法条項(Governing Law)
おもに外国との取引において、契約関係から生じた問題などについてどの国や州の法律に基づいて解釈、判断をするか定めた規定です。
仲裁条項(Arbitration)
契約に関して問題や紛争が生じた場合に、「仲裁手続き」によって解決することを定めるものです。
この規定があると、原則として他の手続きはできなくなります。
合意管轄条項(Jurisdiction)
仲裁手続きではなく、通常の裁判によって紛争を解決する場合に、裁判所を当事者の合意で指定する規定です。
権利非放棄条項(No-Waiver)
契約書に規定される権利について、行使できるのに一定期間行使しなかった場合、行使しなかったからといって「その権利を放棄した」とはみなされないという内容を定めるものです。
分離可能性条項(Severability)
裁判所等によって、契約中のある条項が「無効」と判断された場合でも、他の条項に影響を及ぼすものではないという旨を規定するものです。
完全合意条項(Entire Agreement)
契約を成立する証拠として、本契約書に定められた内容が全てであり、その他のものは無効であるとする規定です。
これにより、たとえ従前の契約書や仮契約書・合意書・覚書・議事録やEメールなどがあっても裁判ではそれらの証拠としての効力を排除できます。
誠実協議条項(Consultation)
当該契約に関して疑義が生じた場合に、話し合いの上で円満に解決することを規定するものです。
紛争については裁判や仲裁の定めがあるため、この条項は何らかの法的義務を発生させる効力はないと考えられています。