契約書翻訳に資格とは必要?求められる資格とは?
契約書翻訳に資格は必要か?
日本の場合、契約書翻訳を行なうにあたって必要な資格はありません。とはいえ、契約書の内容が誤っていると無効になる可能性もあるため、契約書の翻訳者には語学だけでなく法制度の知識も求められます。
法務翻訳の国際規格として存在するのが、ISO20771とISO18587の2つの規格。クライアントが翻訳者を選ぶ際には、海外の法制度や商慣習に関する深い知識と経験を翻訳者が持っているか判断するために法律翻訳の国際規格を取得しているか確認することもあります。
契約書翻訳に関する2つの国際規格
ISO20771
ISO20771はどんな資格?
法務関連に特化した国際規格であり、法務翻訳を行う個人に対して付与される規格です。規格取得には必要条件を満たす必要があり、高い専門性を求められる規格であることがうかがえます。
同じく翻訳品質を保証する規格にISO17100がありますが、こちらは翻訳サービス提供者(LSP)に対して付与されるもの。ISO17100はあくまでも作業プロセスや人材リソースが適切かどうかを評価しているため、翻訳した成果物そのものの品質を保証するものではありません。
ISO20771を取得するための基準とは?
ISO20771では法務翻訳者の資格を以下の5項目に分けて規定しています。
a) 翻訳関連の高等教育機関の卒業資格+法律関連の修士号+3年以上の法務分野での翻訳実務経験
b) 法律関連の高等教育機関の卒業資格+3年以上の法務分野での翻訳実務経験
c) 翻訳関連の高等教育機関の卒業資格+5年以上の法務分野での翻訳実務経験
d) 高等教育機関の卒業資格+公認法務翻訳士の資格(公的な民間機関の公認)+3年以上の法務分野での翻訳実務経験
e) 法務翻訳士の国家資格(国家機関の公認)
日本は翻訳関連の学位を取得できる高等教育機関が限られているため、aとcの資格を満たすことは難しいかもしれません。そのため、法律関連の高等教育機関の卒業資格を規定しているbの資格基準をもとに取得を目指す方が多いようです。
資格基準を満たしていることを証明する卒業証書や合格証明書などの書類は、翻訳者自身で記録・管理しなければなりません。ISO20771の取得を念頭に資格取得を目指す場合は、書類を集めることも忘れないようにしましょう。
ISO20771を取得するメリット
法務翻訳を実施している会社として、国際規格であるISO20771を有することは信頼性の向上にも繋がります。
日本では契約書翻訳の認定制度がありません。信頼できる翻訳者をクライアント自身で探す必要がありますが、その際にISOを取得しているかどうかが判断基準のひとつになります。
ISO20771を取得している翻訳者が在籍していると、翻訳の品質が高い会社であることをアピールできるでしょう。
ISO18587
ISO18587はどんな資格?
ISO18587はポストエディットの国際規格で、機械翻訳の結果を人間の目でチェックして手直しすることを規格化したものです。
翻訳方法には人力翻訳(人手翻訳)と機械翻訳(MT)の2種類がありますが、ポストエディットは機械翻訳と人の手でチェック・修正する作業を組み合わせた翻訳手法のこと。機械翻訳はAIを使用するためコストを抑えながらスピーディーに翻訳できますが、誤訳があったりスタイルが統一されていなかったりして翻訳結果の質に課題がある場合もあるため、機械翻訳でも精度を高めるためにポストエディットを行うのです。
ISO20771に当てはまる作業を前提としているので、基本的にはISO18587のみで認定を受けることはほとんどありません。
ISO18587においてポストエディットは単に機械翻訳のチェックや手直しができるだけでなく、以下の技能や合意した契約や仕事要求に従って翻訳できる能力が必要です。
- 翻訳力
- 起点言語および目標言語における言語・テキストに関する能力
- 調査・情報収集・情報処理の能力
- 文化に関する能力
- テクノロジーに関する能力
- 専門分野の能力
ISO18587を取得するための基準とは?
ISO18587ではポストエディットにおける規定が定められており、これらが機械翻訳の精度向上に繋がる役割を果たしています。
規定とは以下のとおりです。
- 目的
- 作業の概要
- 作業のプロセス
- 修正レベルと修正観点
- ポストエディターが持つべき資格
- ポストエディターの教育の観点
ISO18587の取得に向けて、規定を踏まえてガイドラインを作成する必要があります。
ガイドラインに沿って作業を行う環境が整っているだけでなく、ガイドラインに則って作業が進められていると証明することでISO18587を取得できます。
ISO20771の規定と大きな違いはありません。しかし異なる点として、「翻訳又はポストエディット」の実務経験と「専門家としての意識」の要求事項が追加されています。ポストエディットは翻訳プロセスの一部にフォーカスを当てているため、ISO18587では翻訳手法に関する高いスキルと知識が求められます。一方でプロジェクト全体のリソース管理に関する規定はISO17100に適用されているため、運用を円滑に進めることが目的であれば、ISO17100とセットで取得するのが良いでしょう。
ISO18587を取得するメリット
ISO18587は、機械翻訳やポストエディットの品質に関する規格ですので、取得していることで高品質な翻訳をアピールできます。
欧州の国際機関や企業において、AIによる機械翻訳は欠かすことのできない存在。近年AI技術の進化は目まぐるしく、日本においても機械翻訳の需要は今後も高まっていくと予想できます。ISO18587を取得することはもちろん、資格取得を積極的にアピールすることで競合他社との差別化で効力を発揮するでしょう。
また、人力での翻訳は翻訳者と校正者の複数名が関わるため工数と人件費がかかりますが、機械翻訳は作業者の数を増やさずともより多くの翻訳に対応が可能。機械翻訳で高品質な翻訳を実現できればコストカットに繋がります。
さらに、翻訳の難易度が異なる場合も機械翻訳は作業工数に大きな変化がないため、スケジュールを組みやすいのもメリットといえます。